ペットちゃん
お悩み相談室
獣医師コラム
はじめまして。株式会社レティシアン 専属獣医師の金子 潤と申します。
今回から、プレア様のホームページとプレア通信にてペットの健康や食事・行動などに関するコラムを掲載させていただく運びとなりました。どうぞよろしくお願いいたします。
ワンちゃんの
「食事中のおねだり行動」について
愛犬家の皆様の中には、
「自分たちの食事中に、愛犬から人間の食べ物をおねだりされて困っている」
という方も多いのではないでしょうか?
ワンちゃんはオーナー様の気を引いて人間の食べ物を分けてもらうために、
多種多様なおねだりの方法を編み出します。
ストレートに吠えて食べ物をせがむ子もいれば、クンクンと鼻を鳴らしてひもじそうな様子を見せる子、前足を器用に使ってオーナー様をつついてアピールする子、一言も声を出さずにただじっとオーナー様を見つめて訴えてくるような子もいます。
愛犬の必死のお願いに、
「頭ではダメだと分かっていたはずなのに、つい自分の食べ物を一口与えてしてしまった」という経験も少なからずあるのではないかと思います。
今回のコラムでは、そんな「食事中のおねだり行動」について解説していきます。
おねだりされても
ワンちゃんに人間の食べ物を
与えてはいけない3つの理由
ワンちゃんも人間も雑食性の動物なので、共通して食べられる食材は数多く存在します。
しかし、下記の3つの理由から、人間用に用意された食べ物は基本的にワンちゃんには与えないようにしていただくのが安心です。
-
理由
1
ワンちゃんに有害な食べ物が
入っている可能性がある
人間にとっては無害で美味しく食べられる食材でも、ワンちゃんにとっては有害・毒になってしまう食べ物があります。
下記の食材はご家庭で食べる頻度が高く、ワンちゃんへの危険性も高いものなので、特に注意が必要です。
-
ネギ・タマネギ・ニラ・ニンニク
これらの野菜をワンちゃんが食べると、赤血球が破壊されて重度の貧血を起こしてしまいます。
-
チョコレート
カカオの苦味成分が頻脈や神経症状を引き起こします
-
ブドウ・レーズン
ブドウやブドウの加工食品は、ワンちゃんの腎臓に大きな負担をかけてしまうことが分かっています
-
生の魚介類
生のお魚にはチアミナーゼというビタミンB1を分解する酵素が豊富に含まれているため、ワンちゃんが生のお魚を大量に食べてしまうと体内のビタミンB1が不足して神経症状などを引き起こしてしまいます。チアミナーゼは熱に弱いため、加熱したお魚であればビタミンB1欠乏症は起きません。
-
理由
2
栄養バランスが偏ってしまう
ワンちゃんは肉食傾向の強い雑食動物なので、理想的な栄養バランスが人間と大きく異なります。
人間にとってはヘルシーな食事内容だとしても、ワンちゃんにとっては栄養バランスが大きく偏っている場合があるので、ワンちゃんに人間と同じ食べ物ばかり与えていると、必要な栄養を十分に摂取できなくなってしまいます。
また、カロリーの高い人間の食べ物を食べ続けることによって、ワンちゃんの肥満の原因になってしまう可能性もあります。
-
理由
3
ドッグフードを
食べなくなってしまう
人間の食べ物は、ワンちゃん用のものよりも味付けが濃いものが多いため、人間用の味付けにワンちゃんが慣れてしまうと、ドッグフードを味気なく感じてしまい、食べてくれなくなってしまうことがあります。
ドッグフード嫌いになってしまうと、食事から適切な栄養をとることが難しくなるばかりか、将来病気にかかってしまった際に療法食を使ったケアが十分にできなくなってしまう可能性があります。
ワンちゃんが食事中に
おねだりをするようになるのは
なぜ?
食事中のおねだり行動は、過去の成功体験からワンちゃんが学んだ「学習行動」です。
特定の行動をしたときに食べ物という報酬が手に入ると、ワンちゃんはその行動と食べ物を頭の中で結び付けて、「その行動をすれば食べ物をもらえる」と学習します。
オーナー様が食べ物を直接与えていなくても、床に落とした食べ物のかけらを拾い食いした場合、ワンちゃんにとっては「報酬」となるので注意が必要です。
-
学習が成立しておねだり行動を
するようになってしまう例
-
愛犬が何かに対して吠えていたときに、静かにしてもらおうとオーナー様が食べ物を与えた
-
「お手」をしたら食べ物をもらえた
-
オーナー様の体に前足を置いておねだりするようになる
-
美味しそうに食べているオーナー様のことを見ていたら、食べこぼしが落ちてきた
おねだりをやめさせるには?
基本は「おねだりを無視すること」
● おねだり対策の基本「学習の消去」とは?
おねだり行動をやめさせるための基本は、愛犬の「おねだりをすれば食べ物がもらえる」という学習を消去(リセット)することです。
そのためには、「いくらおねだりしても一切の報酬を得られない」という状態を作る必要があるのですが、これは、「おねだりに対して食べ物を与えない」というだけではなく、「おねだりに対して一切の関心を示さない、何のリアクションも取らずに無視をする」ということです。
おねだりに対して「ダメ」などと声をかけたり、おねだりをやめさせようと愛犬をなだめることも愛犬にとっては「おねだりによって得られた報酬」となってしまうので、すべてに対して無視をしなければなりません。
-
!注意!
一時的におねだりが激しくなる
「消去バースト」に注意!
愛犬のおねだり行動を無視していると、おねだり行動が一時的に激しくなります。
これは、「おねだりに気付いていないのかな?もっとおねだりしなきゃ!」と愛犬が考えているために起こる現象で、学習を消去する過程でほぼ確実に生じます。
おねだり行動に限らず、一度完成した学習が消去される前に問題行動が一時的に悪化するのは一般的なことで、専門用語でこれを「消去バースト」と呼びます。
この「消去バースト」を乗り越えると徐々に学習が消去されていくのですが、この段階で根負けして諦めてしまうオーナー様が多いのが現状です。
一時的におねだり行動が悪化しても「これは愛犬が成長するための一歩を踏み出したところなのだ」と考えて、辛抱強く愛犬と向き合ってあげてください。
おねだりをさせない環境づくり
といはいえ、目を潤ませて見つめられたり、ひもじそうに鳴いたりしている愛犬を無視し続けるのはオーナー様にとっても大変な作業で、心が痛んでしまうこともあるかもしれません。
愛犬にもオーナー様にもなるべく負担がかからないように、「愛犬がおねだり行動をとりにくい環境を作ってあげる」という対策を並行して行うことがおすすめです。
-
その
1
人間よりも先に、
愛犬に食事を与える
満腹の状態ではおねだり行動は起きにくいので、愛犬の食事は人間よりも早い時間帯に与えることをおすすめします。
また、お腹が空いている時間が長くなるほどおねだり行動に発展しやすくなるので、一度に大量の食事を与えるよりも、少量ずつ複数回に分けて与えることをおすすめします。
-
その
2
人間の食事中にも、
愛犬が時間をかけて
食事をとれるようにする
人間より先に食事を与えても、あっという間に平らげてしまい人間の食卓におねだりをしにきてしまうことがあります。
その場合は、中にフードやおやつを詰めることのできるボールやノーズワークマットなどを使って、「遊びながらゆっくりごはんを食べられるようにしておく」のがおすすめです。
愛犬が自分のごはんに夢中になっている間は、おねだり行動は生じにくくなります。
-
その
3
愛犬と人間が食事をとる
部屋を分ける
人間の食卓と愛犬の食事場所を別々の部屋にすることが、おねだり対策にとても効果的です。
愛犬が自分のごはんに夢中になっている間に別の部屋で人間が食事をとるようにし、
後片付けが完了するまで、愛犬はダイニングに入れないようにしましょう。
故意に食べ物を与えなくても、床に落とした食べこぼしが愛犬にとって報酬になってしまうので、後片付けの際は床もしっかりとチェックしましょう。
-
その
4
おねだりが生じる時間帯の前に、
十分な運動をさせる
ワンちゃんは、疲れているときにはあまりおねだりをしません。
おねだりが生じやすい時間帯が分かっていれば、その前にお散歩や遊びなどで十分な運動をさせておくことがおすすめです。
-
その
5
おねだり以外の行動を促す
「ハウス」の指示でケージやサークルに入れるように練習しておき、おねだりが生じそうなタイミングや人間の食事の前にハウスに入るように指示を出しましょう。
また、おねだり行動を無視するのと並行して、「お座り」「待て」などの指示を出してワンちゃん用のおやつやフードの粒を与えるようにすると、おねだり行動の代わりに座って待っていてくれるようになります。
最も重要なのは、
「家族全員が協力すること」
すでに完成しているワンちゃんの学習を消去するためには、ご家族全員が協力し、一貫した態度をとることが何よりも重要です。
誰か一人がおねだりに対して報酬を与えてしまうと、「おねだりによって報酬が得られたり得られなかったりする」という状況を作り出してしまいます。
実は、この状況は学習を消去させるどころか、さらに強化してしまいます。
特定の行動に対して報酬が「毎回」ではなく「ときどき」与えられると、その行動を取る頻度が増え、学習の消去も起こりにくくなってしまうのです。
これを専門用語で「部分強化効果」と呼ぶのですが、人間がギャンブルやスマホゲームにハマってしまうのも、この「部分強化効果」によるものなのです。
おねだり対策を始める際には、ご家族全員が例外なくおねだりを無視するように徹底しましょう。
まとめ
今回は、ワンちゃんの「食事中のおねだり行動」について解説いたしました。
一生懸命おねだりをしている愛犬を無視するのは簡単なことではないかと思いますが、愛犬の健康を守るために、ご家族全員で辛抱強く取り組んであげてください。
今後もペットセレモニープレアのホームページやプレア通信にてワンちゃん・ネコちゃんの健康や栄養、行動などについてのコラムを掲載させていただきます。ペットオーナー様と愛犬・愛猫の生活の一助になれば幸いです。
金子 潤
Jun Kaneko
株式会社レティシアン 専属獣医師
日本ペット栄養学会 正会員
日本獣医動物行動研究会 会員